生まれつき歯の一部が欠損していることから、日々の生活に支障をきたしている方は少なくありません。
またこれまで一度歯を失った方が、再び天然歯を取り戻す術は存在しませんでした。
そんな中話題を集めているのが、歯生え薬の研究・開発です。
今回は、多くの方が歯生え薬に対して持っていると思われる疑問にお答えします。
目次
歯生え薬ってどのようなもの?
夢の新薬として注目を集めている歯生え薬は、京都のベンチャー企業によって研究・開発されている薬です。
文字通り失った歯を生やす薬であり、生まれつき永久歯の数が少ない先天性無歯症の方の治療として対象に研究が進められています。
こちらの歯生え薬では、すでにさまざまな成果が報告されています。
先天性無歯症のマウスにこちらの薬を投与したところ、見事に歯が生えてきました。
さらに人間に近い歯の構造をしているフェレットでも、すでに実験が成功しています。
永久歯が生え揃った後でも、歯茎には歯の芽が残っていて、歯を生やそうとしています。
それをUSAG-1というタンパク質の一種が邪魔しているのですが、歯生え薬を投与すれば、USAG-1の機能を失わせることができます。
そのため、新しい歯が生えてくるという仕組みです。
投薬の方法は静脈点滴であり、回数は1回のみです。
たったそれだけの処置で歯が生えてくるとは、にわかには信じがたいかもしれませんが、医療の発達は今やこの領域にまで進んでいます。
歯生え薬の研究・開発をしているのはどのような企業?
歯生え薬の研究・開発を行っているのは、京都のトレジェムバイオファーマ株式会社という企業です。
こちらは京都大学歯科口腔外科准教授の研究成果をもとに、歯の再生治療薬の研究・開発・上市(世に出すこと)を目的に起業された、京都大学発ベンチャー企業です。
先ほども解説した歯生え薬が開発されたきっかけは、当企業で過剰歯を持つモデルマウスが2007年に発見されたことです。
こちらはUSAG-1遺伝子欠損マウスと呼ばれるものです。
USAG-1遺伝子欠損マウスでは、通常は退化して消えてしまう歯の芽が退化せず、成長することによって過剰歯を形成することがわかっています。
それまで、歯の数が少ない遺伝子欠損マウスはいくつか発見されていましたが、歯の数が多い遺伝子欠損マウスはごく稀でした。
京都大学歯科口腔外科准教授である高橋克氏はマウスの結果に基づき、USAG-1タンパクを薬で不活性化することで先天性・後天性の歯の欠損を治療できる可能性を考えました。
このとき作製されたのが、マウス抗USAG-1抗体というものです。
そしてこちらの生物学的活性を確認し、歯が少ない遺伝子欠損マウスに1回投与したところ、歯の数が回復することが確認できました。
その後に行われたのが、フェレットへの投与です。
さらにマウスとフェレットで歯が増えることが確認できた3種類のマウス抗USAG-1抗体をヒト化し、そのうち1種類を開発候補物として選定しました。
現在はヒト臨床治験の実施に向けて、製造方法や精製の検討、安全性試験の準備をしているところです。
歯生え薬はいつ実用化される?
歯生え薬は、2030年頃の実用化を目指して研究が進められています。
トレジェムバイオファーマ株式会社と提携する大阪の病院では、今年9月に歯生え薬の臨床治験が行われることが発表されています。
具体的には、歯の一部を欠損した健康な男性30人に投与して安全性を確かめ、その後2~7歳の患者に対象を広げる計画です。
こちらが終了し、さらに調整段階に入ってからの実用化となるため、今すぐに誰もが使用できるというわけではありません。
ただし実用化を予定しているのは決して遠い未来ではなく、現在先天性無歯症で苦しんでいる方でも、数年後には歯生え薬で自身の歯を取り戻している可能性があります。
歯生え薬の治験とはどのようなもの?
トレジェムバイオファーマ株式会社の歯生え薬の臨床治験は、先天性無歯症と診断された方のみが参加できる臨床治験です。
将来的に、歯生え薬が理由を問わず歯を失った方をサポートする治療薬になる可能性は十分にあります。
しかし現在のところ、虫歯や抜歯、事故などで後天的に歯を失った方は、こちらの治験には参加できないようになっています。
また参加の流れとしては、まず先天性無歯症と診断された方が、研究グループ機関(居住地のエリア担当機関)にて受診します。
その後レジストリ登録を行い、選ばれた場合に参加が可能になります。
ちなみに当治験は現在のところ、国内で承認を受けることを目標としているため、海外対応は行っていません。
国内での承認が下りた後、将来的には海外での対応を検討する可能性があります。
歯生え薬の開発費用は?
歯生え薬の開発費用については、正確な金額が発表されていません。
しかし、世界初の歯生え薬の研究となれば、膨大な金額が研究・開発に使われているのは容易に想像できます。
またそれを裏付けるデータとして、京都大学口腔外科准教授である高橋克氏が所属する北野病院のサイトでのプレスリリースがあります。
こちらには2023年7月、第三者割当増資で総額3億8,000万円をしたという旨が記載されています。
またこちらの資金は、治験用製剤の製造などに充てるとされていて、薬の実用化に向けては製薬会社と組むことを模索しています。
歯生え薬の治験における安全性は?
歯生え薬の治験では、対象の男性に薬が投与されますが、こちらは口腔内ではなく、腕から点滴で投与されます。
またこういった手法に対し、「身体の思わぬところから歯が生えてくるのでは?」という疑問を抱く方もいますが、実際はそのような心配はないようです。
なぜなら、歯生え薬はあくまで歯の根に作用するものであるからです。
基本的に現段階の歯生え薬では、ゼロから歯をつくることはできません。
つまり歯の根がないと、歯が生えることはないということです。
頭や手、足には当然歯の根がないため、このような場所から歯が生えてしまう心配はありません。
薬の安全性について確認し、医薬品としての承認を得るのが治験の目的であるため、その他の安全性については未知数です。
歯生え薬が実用化されることのメリットは?
歯生え薬が実用化されることの大きなメリットは、健康寿命を延ばせる可能性があることです。
現在は超高齢化社会であり、健康寿命を延ばすことを目標として予防医療への関心が高まっています。
健康寿命は、人がケガや病気で寝込むことなく、健康な状態で自立して生活できる期間です。
単に生存している期間ではなく、あくまで健康な状態でいられる期間を指しています。
こちらの健康寿命を延ばすために、全身の不調であるフレイルの前段階であるオーラルフレイル(口腔機能の低下)を改善するのはとても重要です。
オーラルフレイルによって咀嚼機能が衰えると、全身のフレイルが進行することになるため、咀嚼における歯の重要性が再認識されています。
またオーラルフレイルの改善に必要なのは、なんといっても自身の歯で咀嚼することです。
そのため歯生え薬が実用化されれば、高齢の方でも自身の歯で食事ができるようになり、健康寿命を大幅に延ばせる可能性があります。
まとめ
研究が進んでいる歯生え薬は、近々臨床治験が実施されます。
その結果いかんでは、実用化に向けて大きな進歩が見られる可能性もあります。
また実際に実用化されることになれば、これまでにはなかった天然歯の萌出や健康寿命の長期化、さらには入れ歯やインプラントに変わる治療法の確率が期待できます。
現在歯の欠損によって苦しんでいる方も、期待して吉報を待ちましょう。
東京都品川区五反田周辺で歯科治療をご検討の際には、是非、当院にご相談下さい。
一人一人に合った治療方法をご提案させて頂きます。