注目を浴びるインプラントとはどのような治療法?
インプラントとは、もともと人の体内に埋め込む人工物のことです。歯科診療でインプラントといえば、顎の骨に人工の歯根を埋め込む治療のことをいいます。
顎の骨に埋め込まれる人工の歯根のことをインプラントと呼び、インプラントに人工の歯を装着します。これによって、失われた歯を補うのですが、ブリッジや入れ歯とは違って違和感がなく、本来の歯に近い機能が期待できるため、近年はインプラント治療を希望する患者さまが増加しています。
歯茎の下には支える「歯根」という部分があります。歯根が残っていれば、歯根の上に差し歯などをして歯の機能を補うことができますが、歯根がなければ、入れ歯やブリッジを入れるしかありません。
インプラントとは、失われた歯根を人工的に構築する治療法なのです。
インプラントと従来の治療の違いとは
歯を1本失ったとき、最初にかんがえられる治療はブリッジや部分入れ歯です。
ブリッジでは、失われた歯の両隣にある健康な歯を削って、それを土台にして人工の歯をかぶせます。これがブリッジです。奥に歯がない場合は、部分入れ歯となり、金属製のバネを使って入れ歯を支えます。
歯や顎には、想像以上の力がかかります。食べ物を噛むときでも、奥歯1本には人の体重に近い重さがかかっているといわれます。さらにスポーツ選手が力をいれるときは、かなりの強い力がかかり、長くプロスポーツを続けていると奥歯がボロボロになってしまうといいます。
ブリッジ治療の場合、本来3本の歯で受け止める力を2本の歯を受け止めなくてはなりません。単純計算で、3本の歯にかかっていた力を2本で受け止めれば、かかる力は約1.5倍。さらに、ブリッジをした歯は削られることで弱くなり、時間が経つうちに欠けたり割れたりすることもあります。そうやって、連鎖的に歯がだめになってしまうことがあります。
また、歯根がないと、顎の骨は噛むことによって得られる刺激がないため、しだいに痩せていきます。残っている歯も失われた歯の隙間を埋めるため移動してしまいます。このため、当初はぴったり合っていた義歯も、時間が経つうちに合わなくなってしまいます。
その点、インプラントでは、人工的な歯根を設けて人工の歯を装着するため、他の歯に影響を及ぼすことはありません。顎の骨にもそれまで通り噛むごとに刺激が伝わるので、骨の変形も防ぐことができます。
インプラントの技術も進歩を続け、近年は歯を失った場合の効果的な治療法として確立しました。失われた歯の機能を回復するとともに、残っている歯を大切にしたいという方には、インプラントをおすすめします。
インプラントのメリット・デメリット
どんな治療法にも、メリットとデメリットがあります。それをしっかり理解したうえで、治療法を選ぶことが必要です。
インプラント治療を行えない場合もあります
残念ながら、インプラントはどれにも適用できる治療法ではありません。患者様の状態によっては、断念せざるを得ないこともあります。
たとえば、インプラントを埋める個所の骨が薄くなっている場合は、骨造成という骨を増やす治療を行うことが必要になりますが、既往症などがある場合は、骨造成が困難なケースもあります。インプラントの治療が可能かどうかは、十分な検査を行い、検討いたします。
インプラント治療では、顎の骨に人工歯根を埋めるという外科的手術をともなうため、手術が可能であることが前提条件となります。
また、インプラントは継続的なメンテナンスを行っていれば長持ちしますが、ケアを怠ると虫歯菌などの細菌に侵され、インプラント周辺が炎症をおこします。これをインプラント周囲炎といいますが、ひどくなるとインプラントが外れてしまいます。
インプラントをした後も、他の歯と同じように日頃のケアが重要です。素晴らしい治療だといっても過信は禁物です。
インプラントのメリット
よく噛める
天然の歯と同じような感覚で食事ができ、食べ物の味や感触もよくわかります。おいしい食事を楽しむことができ、充実した日々を送ることができます。
他の歯を守ることができる
残った健康な歯や組織を傷めることなく、周囲の歯に負担をかけることもありません。噛む刺激で顎の骨が活性化され、骨の劣化を防ぎます。歯が抜けたため痩せていた骨が回復することもあります。
見た目が自然
治療後の見た目が自然で、自分の歯とほとんど変わりませんし、入れ歯のように外れることもありません。周囲に気づかれることもないでしょう。
全身の健康にも好影響
インプラントがあれば、自分の歯と同じように食べ物を咀嚼できます。咀嚼することで、胃や腸など消化器官の負担も軽減されますし、咀嚼の刺激によって脳が活性化されます。それによって認知症予防が期待できます。
適切なメンテナンスで長持ちする
インプラントはブリッジや入れ歯などの素材に比べ、耐久性に優れ、手入れも簡単です。歯科医院で定期的にメンテナンスを受けることで、長持ちします。
安全性が確立している
人工歯根の素材にはチタンが使われます。チタンには、骨と直接結合する特性があり、時間が経つに従って骨と一体化します。チタンは心臓のペースメーカーにも使用されるほどで、安全性に問題はありません。
インプラントのデメリット
健康保険が適用されない
インプラントは保険適用外(自由診療)なので、費用が高くなります。費用については事前に確認し、納得してうえで治療を受けましょう。
外科的手術をともなう
入れ歯やブリッジによる治療とは違い、インプラントを埋め込むためには外科的手術が必要になります。麻酔や手術後の痛みなどある程度の身体への負担は避けられません。
手術後はひどく痛んだり腫れたりすることがあります。痛み止めや抗生物質を処方しますので、医師の指示に従って服用してください。
術後のケア
インプラントを長持ちさせるには、メンテナンスが必要です。歯磨きなどのセルフケアに加え、歯科医院でも定期的な検診で清潔に保つことが大切です。
不適応の方がいます
重度の全身疾患や歯周病がある方、妊娠中の方に対しては治療を行うことができません。病気の治療を先に行う必要となります。
インプラント治療における注意点
・インプラント治療は外科手術をともないます。手術に不安のある方は事前にご相談ください。静脈内鎮静法で不安を軽減して、治療することもできます。
・手術前日は、体調管理に気を付け、睡眠を十分にとってください。
・手術直後には若干の出血があります。しかし、何度もうがいしたり、強くうがいをしたりすると傷の治りが遅くなる場合があります。また、手術の跡を指や舌で触れないようにしてください。傷の治りが遅れ、感染症を引き起こすこともあります。
・上顎の手術の後は、強く鼻をかまないようにしてください。鼻血が出ることもありますが、特に心配はありません。
・手術後にひどい痛みや腫れがあることもあります。痛みがある場合は、処方した痛み止めを服用してください。抗生物質は、症状に関係なく最後まで飲み切ってください。
腫れが出た場合も数日で引きます。痛みや腫れが長く続く場合は、ご連絡ください。
・食事は手術当日からできます。治療した個所で噛まないよう気を付けてください。
手術当日は、刺激の強い食べ物やアルコールは控えてください。
・喫煙すると、傷の治りが悪くなるなど術後の経過に影響するため、できるだけ控えてください。
・手術当日は、激しい運動や入浴を避けてください。シャワーは構いません。
・手術当日は、自動車や自転車の運転はできません。
・手術後の歯磨きは、手術跡に歯ブラシを当てないようしてください。
インプラント治療支援システム「Landmark System™」
当院ではより安全で安心できるインプラント治療を実現するため、大阪大学歯学部の研究成果をもとにインプラント手術支援システムのトップシェアであるアイキャット社が開発した「Landmark System™」を導入しています。
手術前に撮影したCT撮影データを解析することにより、あごの骨の構造や神経の位置を高精度で把握することが可能になります。
「Landmark System™」によるインプラント治療の流れ
「Landmark System™」によるインプラント治療は診断から手術に至るまで完全にシステム化されています。
患者様ファーストのインプラント治療の実践が最大の目的ですが、当院のリスクマネジメントにも欠かせないシステムです。
CT撮影
当院では、手術前にCT撮影をお願いしております。
従来のレントゲン撮影では、あごの骨を撮影しても2次元の平面的な画像しか得られませんでしたが、CT撮影の場合3次元での立体画像で患部をとらえるためより正確な診断やインプラント治療が可能になりました。
CT撮影による被ばく量
CT撮影では被ばくを伴いますが、自然界で1年間に受ける被ばく量よりも小さい量になります。
ごく僅かな被ばく量よりもインプラント治療を施すこによって、よく噛みしっかりと食事をとれるようになることが健康に繋がると考えることができます。
※図:全国歯科大学・歯学部附属病院診療放射線技師連絡協議会ホームページ、資源エネルギー庁ホームページ、原子力・エネルギー教育支援情報提供サイトより一部改変引用
診断・治療計画
事前に撮影したCT画像をインプラントシミュレーションソフトで読み込み、あごの骨の形状・硬さ・神経の位置を確認しながらインプラントを埋入するのに最適な位置を診断します。
診断後、実際に患者様とシミュレーションソフトの画面を確認しながら治療計画をご説明しますので、患者様に十分にご納得いただいた上で治療を進めていきます。
手術
診断結果をもとにインプラント埋入手術を行います。
診断で決定した位置により正確にインプラントを埋入するため、手術支援器具「サージカルガイド」を使用します。
サージカルガイドは埋入位置・方向を示すガイド孔が開けられたマウスピース上の装置で、人為的ミス防止も含め精度の高いインプラント治療が可能になります。