インプラント治療は、歯を失った多くの方が選択する治療法です。
近年は入れ歯やブリッジではなく、インプラントを選択する方も増えています。
インプラントで使用される素材にはさまざまな種類があり、中でも新しいものがペクトンです。
近年注目を集めるペクトンについて詳しく解説します。
目次
ペクトンとは?
ペクトンとはプラスチックの一種であり、軽量で強度が高いことが特徴です。
インプラント治療には主にチタンやジルコニアなどが使用されますが、ペクトンはそれらに続く新しい素材として注目を集めています。
ペクトンは、スイスのCendres+Metaux社から販売されています。
日本でも薬事申請を通過し、承認を得て歯科治療で使用できるようになりました。
ペクトンは歯科治療以外の医療分野でも採用され、頭蓋骨の損傷部や人工関節、椎間板などに使用されています。
ペクトンのメリットについて
インプラントの新素材・ペクトンには次のメリットがあります。
・ショックアブソーバー機能 ・生体親和性が高い ・金属アレルギーのリスクがない ・吸水性が低い ・プラークコントロールがしやすい ・軽量かつ強度が高い ・減菌できる ・電気や熱伝導がない ・加工性が高い |
各メリットの詳細を説明します。
ショックアブソーバー機能
ペクトンのメリットの一つが、はショックアブソーバー機能です。
ショックアブソーバー機能とは、咀嚼時などの衝撃をうまく吸収する機能のことをいいます。
衝撃を吸収しやすい理由として、ペクトンの持つ柔軟性の高さが挙げられます。
優れた柔軟性により咀嚼時に発生する衝撃を吸収・分散し、違和感のない噛み心地を得ることが可能です。
また、骨にかかる力も軽減されるため、体に優しい素材といえるでしょう。
生体親和性が高い
頭蓋顔面へのインプラントなどで採用されていることでもわかるとおり、ペクトンには生体との親和性が極めて高いというメリットもあります。
生体親和性が高いということは、体となじみやすいということです。
副作用などの悪影響を体に及ぼすことがないため、生体での永久使用が認められています。
そのため、インプラントを少しでも長く使用したい方におすすめです。
金属アレルギーのリスクがない
ペクトンには金属アレルギーのリスクがないこともメリットです。
なぜなら、ペクトンは金属ではないからです。
インプラントでよく使用される素材のチタンは金属ですが、金属アレルギーのリスクが低いという特徴があります。
しかし、金属素材である以上、アレルギーのリスクはゼロではありません。
一方、ペクトンは金属ではなくポリマー素材であり、金属を少量だけ配合しているということもありません。
したがって、金属アレルギーを持つ方でも安心して使用できます。
吸水性が低い
ペクトンのメリットの一つが吸水性の低さです。
ペクトンは吸水性が低いため、虫歯や歯周病といった細菌が引き起こす口内トラブルを防止できます。
吸水性と口内トラブルとの間にどのような関係があるのか疑問に思うかもしれません。
実は、プラークが付着しやすいかどうかは、吸水性と大きな関係があります。
吸水性が高いと素材にプラークが付着しやすくなります。
なぜなら、唾液などの水分がプラークの粘着性を増してしまうからです。
一方、吸水性が低いとプラークが付着しにくくなり、インプラント周囲炎になったり、周囲の歯が虫歯や歯周病になったりするリスクを抑制できます。
プラークコントロールがしやすい
前述したとおり、ペクトンはプラークが付着しにくいため、プラークコントロールがしやすいというメリットもあります。
プラークコントロールがしやすいということは、汚れを落とすための時間や手間を省きやすいということを意味します。
ここでいうプラークコントロールとは、主に歯ブラシによるブラッシングのことです。
ほかに、デンタルフロスや歯間ブラシ、ワンタフトブラシなどの使用も含まれます。
プラークコントロールがしやすければ、ブラッシングによるプラーク除去の効果が高まり、歯の健康に寄与します。
インプラントや自分の歯を健康な状態のまま長く使えるでしょう。
軽量かつ強度が高い
ペクトンのメリットの一つが軽量かつ強度が高いことです。
軽量であり強度が高いため、使い心地がよく、天然歯にダメージを与えにくくなります。
従来の歯科材料の常識は、強度が高いものは重いというものでした。
歯科治療でよく使用される金属は、強度を重視した素材であるため丈夫です。
一方で、重いために天然歯よりも使用感がよくありません。
また、硬すぎる素材を補綴物に使用した場合には、噛み合わせた天然歯を損傷する恐れがあります。
ペクトンは上述の常識を覆した素材です。
適度な軽さと硬さを兼ね備えていることから、非常に高品質な素材といえるでしょう。
減菌できる
ペクトンには減菌が可能というメリットもあります。
滅菌により、インプラント周囲炎の予防が可能です。
インプラント周囲炎とは、インプラントが歯周病に似た状態になる病気です。
治療後、インプラントと歯肉の境目に細菌が入り込むことで引き起こされます。
インプラント周囲炎の初期段階では、歯茎が出血する程度の異常しか見られません。
しかし、悪化すると非常に厄介で、インプラントの脱落につながるおそれもあります。
以上のリスクがあるため、ペクトンが減菌可能であることは大きなメリットです。
細菌を減らすことで、インプラントの大敵であるインプラント周囲炎にかかるリスクを低減できます。
電気や熱伝導がない
ペクトンのメリットとして、電気や熱を伝導しないという点が挙げられます。
電気や熱を伝導しないため、ガルバニー電流や熱により痛みを感じるリスクが低く、安全です。
ガルバニー電流とは、金属製の食器やアルミ箔などを噛んだときに、口の中に違和感を覚えたり、ピリッとした痛みを感じたりする現象のことです。
異なる金属同士が接触することで微弱な電流が流れ、上述の現象が発生します。
ガルバニー電流は、自律神経を乱すなど健康に悪影響を与えるため、軽視することはできません。
その点、ペクトンは金属ではないポリマー素材であるため、ガルバニー電流が発生せず安心して使用できます。
また、熱伝導率が低いため、熱いものを食べたり飲んだりしたときに、しみるような痛みを感じることもありません。
以上の理由から、ペクトンは安全かつ快適に使用できる素材といえます。
加工性が高い
ペクトンのメリットの一つが、加工性の高さです。
加工性が高いため、時間とコストの削減につながります。
さまざまな用途の補綴物をCAD/CAMで作製でき、歯科医院は作製までの時間短縮が可能になります。
また、内製化により作製コストが低下するため、患者さんにとっては金銭的負担が軽減される点がメリットになるでしょう。
ペクトンはインプラント治療以外にも使用される
ペクトンはさまざまな医療分野で採用されている素材です。
歯科治療においても、インプラント治療のほかにブリッジや歯の土台となるコアなど、さまざまな用途で使用されています。
ブリッジとは、歯を失った部分を補う治療の一つです。
欠損した部分の両隣の歯を支持として使い、欠損した部分を補います。
既述したとおり、ペクトンには衝撃を吸収する・生体親和性が高いなど複数のメリットがあるため、使用することでブリッジの品質が向上します。
また虫歯や歯冠部を失った歯の根部を補強する際には、コアが使用されます。
コアにペクトンが採用されるケースもあります。
ペクトンの注意点について
ペクトンはさまざまなメリットを持つ素晴らしい素材ですが、適用するにあたり、次の注意点があります。
・歯根膜が存在しない ・天然歯と色味が異なる |
各注意点の詳細を説明します。
歯根膜が存在しない
ペクトンには歯根膜が存在しないという点に注意が必要です。
ただし、ペクトン特有の注意点ではありません。
なぜなら、インプラントは天然歯とは異なり歯根膜が存在しないためです。
インプラントでペクトン以外のほかの素材を使用した場合も、同様に歯根膜は存在しません。
歯根膜とは、歯根の表面と歯槽骨の間を結びつける線維性の結合組織です。
咀嚼時にかかる力を吸収・緩和し、歯に加わる力が直接歯槽骨に伝わることを防ぐため、クッションのような役割を果たします。
既述したとおり、ペクトンにはショックアブソーバー機能があり、歯根膜のように衝撃を吸収・緩和します。
ただし、天然歯と比べるとその機能が劣る点に注意が必要です。
インプラント治療で使用されるほかの素材よりも過剰な負荷を緩和しますが、天然歯ほどではないことに留意してください。
天然歯と色味が異なる
ペクトンはインプラントだけでなく、さまざまな歯科治療で採用されています。
ただし、審美性に優れた素材ではありません。
ペクトン自体の色はアイボリー色であり、黄色みのある薄い灰色です。
天然歯とは異なる色味であるため、見た目には違和感があるでしょう。
そのため、被せ物の内側にペクトンを使用し、外側にはセラミックなどより天然歯に近い色調の素材を使用するケースが多いです。
まとめ
ペクトンは、従来の素材にはないメリットを数多く備えていることから、今後のインプラント治療における代表的な素材になるとして期待されています。
衝撃の吸収・緩和や滅菌、加工性の高さなど、さまざまな魅力を持ちますが、審美性はやや劣ります。
したがって、現状はセラミックなど審美性の高い従来の素材と併用するケースが多いようです。
ペクトンを使用したインプラント治療をしてほしい場合は、歯科医師に相談しましょう。
東京都品川区五反田周辺でインプラント治療をご検討の際には、是非、当院にご相談下さい。
一人一人に合った治療方法をご提案させて頂きます。