歯茎の腫れを感じたときにまず疑うのは、歯周病ではないでしょうか?
しかし、腫れを伴う病気は歯周病だけに限りません。
その代表例が「歯肉増殖症」です。
特殊な病気のように聞こえるかもしれませんが、実は誰にでも起こる可能性のある身近な病気です。
今回は、この歯肉増殖症が一体どのような病気なのか、詳しく解説します。
歯肉増殖症とは
CMなどの影響もあり、「歯茎の腫れ=歯周病」というイメージを持つ人は多いでしょう。
実際に、歯周病を心配して来院される患者様は少なくありません。
もちろん、歯周病の可能性もありますが、歯茎の腫れを引き起こす病気はそれだけではありません。
その1つが、歯肉が盛り上がるように腫れる歯肉増殖症です。
「歯肉が盛り上がるように」と書きましたが、実はその腫れ方は1つではありません。
原因や口内の状態によって異なり、ごく一部が局所的に腫れることもあれば、広範囲にわたって広がることもあります。
意外かもしれませんが、歯肉増殖症は歯周病のような感染症ではありません。
細菌が原因で腫れるわけではないため、人から人へうつることがない点は安心です。
しかし、だからといって安心しすぎるのは禁物です。
適切なケアや治療が必要な病気であるため、早めに歯科医院で診察を受けましょう。
歯肉増殖症は、原因によって主に「炎症性」「薬物性」「遺伝性」の3つに分類されます。
1つ目は、毎日のお手入れ不足からくる「炎症性歯肉増殖症」です。
磨き残したプラークや歯石が歯の周囲に付着し、引き起こされます。
こう聞くと、「歯周病との違いは何?」「感染症ではないはずなのに、なぜ細菌の塊であるプラークが関係するの?」と不思議に思うかもしれません。
炎症性歯肉増殖症は、プラークや歯石による刺激が引き金となって歯茎の厚みが増す病気です。
プラークや歯石による「刺激」と書きましたが、前者は「化学的な刺激」――つまり、炎症を指します。
対して、後者は硬さやザラつきが直接歯茎を傷つける「物理的な刺激」となります。
実は、歯周病と炎症性歯肉増殖症は、発症までの道筋こそ似通っていますが、最終的な反応に違いがあるのです。
歯周病が細菌の毒素によって歯を支える組織や骨を「破壊」するのに対し、炎症性歯肉増殖症は、炎症をきっかけに歯茎を過剰に「増殖」させます。
このように反応こそ違いますが、発症するまでのプロセスがよく似ているため、両者は深く関連し合っています。
また、意外な原因として挙げられるのが、口呼吸です。
口呼吸によって口内が乾燥すると、唾液が本来持つ汚れを洗い流す力が十分に発揮されません。
その結果、プラークが増えやすい環境となり、歯茎の腫れを助長してしまいます。
炎症性歯肉増殖症は、腫れた歯茎と歯の間に歯周ポケットができ、そこに汚れが溜まって炎症がさらに進むという悪循環に陥りやすい病気です。
しかし、基本的には一過性の症状です。
丁寧なブラッシングでしっかり汚れを取り除けば、多くの場合は元の状態に戻るため、根気強くケアを続けましょう。
2つ目の「薬物性歯肉増殖症」は、歯肉増殖症の中で最もよくみられ、特定の薬を服用した際の副作用として現れます。
特に注意が必要なのは、抗てんかん薬や高血圧薬、免疫抑制薬などを服用しているケースです。
これらの薬の影響で歯肉の厚みが増すと、歯周ポケットができやすくなり、先ほどの炎症性と同様に汚れが溜まりやすい環境をつくってしまいます。
先述したとおり、歯周ポケットに溜まった汚れは炎症を悪化させる大きな要因になります。
したがって、予防と改善のためにも、口内を清潔に保つことが非常に重要です。
もし、常用している薬があり、歯茎の腫れが気になり始めたら、それは副作用かもしれません。
一人で悩まず、早めに歯科医院を受診し、適切なアドバイスを受けてください。
名前のとおり、遺伝的な要因によって発症するのが、3つ目の「遺伝性歯肉線維腫症」です。
他のケースと同じように歯茎が大きく盛り上がりますが、遺伝が背景にあるため、プラークの蓄積とは無関係に発症するのが特徴です。
そのため、セルフケアだけでは予防できず、治療後に再発がみられた場合には、外科手術によって増殖した歯肉を取り除く必要が出てくることもあります。
歯肉増殖症の治療方法

歯肉増殖症の治療において、基本となるのは毎日の丁寧な歯磨きです。
歯周病の治療と同様に、まずはブラッシングでプラークを徹底的に落とすことが何よりも重視されます。
これに加えて歯科医院での専門的なクリーニングで歯石を除去しますが、症状が進行している場合には外科的アプローチが必要になることもあるでしょう。
このように、治療の進め方は歯周病と多くの共通点があります。
歯肉増殖症が軽度の状態なら、毎日の丁寧な歯磨きが大きな効果を発揮します。
正しいブラッシングで口内を清潔に保ちつつ、歯科医院でのプロのケアも欠かせません。
専用の機器を使用するPMTCで頑固な歯石をきれいに除去すれば、健康な歯茎を取り戻しやすくなるでしょう。
歯肉増殖症の悪化を防止する鍵は、清潔な口内環境の徹底にあります。
腫れた歯茎の周りには汚れがつきやすく、放置するとさらなる炎症を招きます。
炎症を防ぐためにも、普段の歯磨きにプラスして、歯間ブラシやフロスも取り入れましょう。
歯ブラシだけでは落とし切れない隠れた汚れを確実に除去することで、歯茎の腫れが落ち着きやすくなります。
注意が必要なのは、付着したプラークが固まって歯石になった場合です。
歯石は非常に硬く、歯磨きだけでは太刀打ちできないため、歯科医院でのケアが必要になります。
専用の機器を用いたPMTCなどのプロのクリーニングにより、根こそぎ除去してもらいましょう。
歯肉増殖症が悪化して歯周ポケットが非常に深くなると、専門的なクリーニングでも汚れを除去しきれません。
根本から解決するためには、歯肉を切開して汚れを除去する手術や、歯周ポケットを浅くする処置が必要になる場合があります。
さらに、増殖して大きく盛り上がった歯肉を切除し健康的な形に整えることで、汚れを溜まりにくくし、再発を抑えます。
ただし、原因や体質によっては再発のリスクが伴うことを、あらかじめ理解しておきましょう。
薬物性歯肉増殖症の場合、処方薬の変更や中止によって原因が解消され、歯茎の状態が回復することがあります。
しかし、薬によっては急に中止すると体に悪影響を及ぼす恐れがあるため、自己判断で服用を止めるのは禁物です。
薬は今の体調を支える大切なものであるため、まずはかかりつけ医に「服用を止めても問題ないか」「代わりの薬があるか」を相談してください。
薬の継続が必要で変更が難しい状況であっても、盛り上がった歯肉を切除する外科手術を行うことで、症状を改善させる道があります。
歯周病との違いは?
歯周病と歯肉増殖症は、どちらも「歯茎が腫れる」という点ではよく似ていますが、その性質は正反対です。
ともにプラークや歯石がきっかけとなりますが、歯周病は毒素によって「骨などが破壊される」のに対し、歯肉増殖症は刺激によって「歯茎が増殖する」のが大きな特徴です。
歯肉増殖症は歯が歯茎に埋もれてしまうことはあっても、歯周病のように土台となる組織を破壊することはありません。
また、歯肉増殖症は特定の薬の副作用が主な原因となるのに対し、歯周病はあくまで細菌感染が原因であり、薬によって引き起こされることはありません。
ただし、薬の種類によっては「歯周病になりやすい環境」や「症状が悪化しやすい状態」をつくり出すケースが存在します。
薬そのものが直接的な原因ではなくても、間接的に歯周病のリスクを高めてしまうことがあるのです。
見た目の印象も、歯周病と歯肉増殖症では違いがあります。
歯周病は歯茎が腫れて赤黒くなり、ブヨブヨとした塊のような質感になるため、一目で不健康な印象を与えます。
対照的に、歯肉増殖症は中身が詰まるため、歯茎は硬く張りのある質感です。
大きく盛り上がった歯茎の中に歯が埋もれているような独特の見た目になるため、初めて見る方は驚くかもしれません。
なお、歯肉増殖を伴う歯周病の場合には、これら両方の特徴が同時に現われることになります。
歯周病と歯肉増殖症は、その治療方針において大きな違いはなく、基本的にどちらも同じようなアプローチで改善を図ります。
いずれのケースも、口内を清潔に保つことが完治への第一歩です。
汚れを溜めない環境づくりのために、毎日のお手入れを丁寧に行い、歯に付着したプラークを徹底的に取り除きましょう。
歯茎の腫れがひどい場合には、どちらの病気も外科的アプローチが検討されます。
幸い、歯肉増殖症そのもので歯を支える歯槽骨が溶けることはありません。
しかし、不衛生な環境が続いて症状が悪化すると、最終的には歯周病を併発したり、歯周病そのものへと変化したりする可能性があります。
たとえ、腫れの原因が歯周病ではなかったとしても、油断は禁物です。
症状の悪化を防ぐために、毎日の丁寧な歯磨きと、歯科医院での定期的な歯科検診を習慣にしましょう。
この両立こそが、歯肉増殖症と歯周病を遠ざける近道です。
まとめ
歯肉増殖症は、炎症や薬の副作用、遺伝的要因などによって歯茎が腫れて盛り上がる病気で、特に薬の影響によるものが多くみられます。
治療の基本は口内を清潔に保つことであり、歯にプラークが付着しないよう、表面はもとより腫れによって深くなった歯周ポケットの内部まで、徹底的に汚れを落とすことが欠かせません。
歯周病と多くの共通点があり、治療方法も似ていますが、その性質は正反対で、歯周病が毒素によって「骨を破壊する」のに対し、歯肉増殖症は刺激によって「歯茎が増殖する」という大きな違いがあります。


