現代の歯科治療において、失った歯を補う画期的な方法としてインプラントが定着しています。
この治療が入れ歯やブリッジと決定的に異なる理由は、「オッセオインテグレーション」という現象が生じる点にあります。
しかし、これが具体的にどのような現象なのか分からない方も多いのではないしょうか。
今回は、このオッセオインテグレーションの仕組みについて詳しく解説します。
オッセオインテグレーションとは?
オッセオインテグレーションとは、ラテン語で「骨」を意味する Osseo と、「統合・結合」を意味する Integration を組み合わせた造語です。
多くの方は、骨にインプラントを埋めた際は木ネジのように物理的な摩擦力だけで留まっていると考えがちです。
しかし光学顕微鏡のレベルで観察すると、両者の間には拒絶反応による介在物が一切なく、完全に一体化しています。
このように異物反応を起こさずにチタンと骨組織が結合する現象を、オッセオインテグレーションと呼びます。
これらが一体化することで噛んだときの強い圧力が直接顎の骨へと伝わり、自分の歯のような感覚で食事ができるようになるのです。
この現象は1952年にスウェーデンの解剖学者であるペル・イングヴァール・ブローネマルク教授がまったくの偶然から発見しました。
当時、教授は血流の基礎研究を行うためにウサギの骨へチタン製のカプセルを取り付けて実験を行っていたそうです。
ところが実験終了後にカプセルを回収しようとしたところ、チタンが骨と完全に融合しており、傷をつけずにはどうしても外せなくなっていました。
当時の医学界では、体内に異物を入れると拒絶反応が起き、線維性の組織で包み込んで排除しようとするのが常識とされていました。
しかし、チタンだけは例外的に骨と拒絶反応を起こさずに融合することが分かり、これが近代インプラント治療の幕開けとなったのです。
以降は長年にわたる研究を経て、1965年に世界で初めて人への臨床手術が行われ、その安全性が証明されました。
インプラントを顎の骨に埋入してからこの結合が完全に獲得されるまでには、生体内でドラマチックな治癒プロセスが進行しているのです。
インプラントを骨に埋入すると、まず周囲の毛細血管から出血が起こり、インプラント表面が血液で満たされます。
チタンの表面は、空気や水に触れた瞬間に酸化チタン(TiO₂)という非常に安定した超薄膜の層を形成する性質を持っています。
この層にフィブリノーゲンやフィブロネクチンなどの血液中の特定のタンパク質が瞬時に吸着し、骨の細胞を呼び寄せるための足場となるのです。
吸着したタンパク質を足場にして血液が固まり血塊が作られると、その中に炎症細胞やマクロファージ、新しい骨を作る元となる細胞がインプラント表面に集まってきます。
やがてインプラント表面に到達した骨芽細胞が活性化し、骨の基質となるコラーゲンなどを分泌し始めます。
さらにカルシウムやリンなどのミネラルが沈着することで、まずは織骨という未熟で粗い骨が作られ、インプラントと骨の間に初期的な微細な結合が生まれる仕組みです。
時間の経過とともに未熟だった織骨は硬くて強固な構造を持つ「層板骨」という成熟した骨へと徐々に作り替えられていく「骨のリモデリング」が起こります。
最終的に骨の細胞がインプラント表面の微細な凹凸に深く入り込んで完全にロックされることで、人間の力では到底引き抜くことのできないオッセオインテグレーションが完成するのです。
オッセオインテグレーションに関わる要因

インプラント治療は、ただ顎の骨に埋入すれば100%結合するわけではなく、いくつかの絶対的な条件をクリアする必要があります。
中でも手術直後にインプラントが骨の中でグラグラせず、物理的にしっかりと固定されている度合いを「初期固定」といいます。
もし埋入したインプラントが治癒の過程で「マイクロムーブメント」という微小な動きを起こしてしまうと、生体は異物と判断して柔らかい傷跡の組織で包んでしまうのです。
ここで許容される微少な動きはわずか50〜150ミクロン(0.05~0.15mm)以下とされており、これを超えると大きな振動が加わると結合は失敗に終わります。
また、骨にインプラントを植えるための穴をドリルで開ける際は摩擦熱が発生するのですが、実は骨の組織は熱に非常に弱いのです。
具体的には47℃以上の熱が1分間以上加わってしまうと、骨の細胞がやけどを起こして壊死してしまいます。
そのため、実際のインプラント手術では、大量の生理食塩水で冷却しながら細心の注意を払ってドリルによる穴あけ作業が行われているのです。
壊死した骨はインプラントと結合できないため、手術中は生理食塩水で徹底的に冷却しながら低速でドリルを回転させる高度な技術が求められます。
また、チタンの表面はツルツルしているよりも適度なザラザラ感を持つ方が、骨芽細胞が侵入しやすく結合速度や強度は飛躍的に高まることが分かっています。
そのため、現代のインプラントは、酸で表面を溶かす酸エッチング処理や粒子を吹き付けるブラスト処理などを組み合わせ、ナノレベルで最適な凸凹が作られているのです。
一方で、生体の治癒力を利用する治療である以上、患者様ご自身の健康状態もダイレクトに影響します。
特に喫煙はニコチンが血管を収縮させて骨への血流を著しく阻害してしまうため、非喫煙者と比較するとインプラントの結合失敗リスクが数倍に跳ね上がるのです。
さらに糖尿病で血糖値がコントロールされていない状態では、白血球の機能が低下して傷の治りや骨の再生が大幅に遅れます。
ほかにも骨粗鬆症で骨の密度そのものが極端に低いと初期固定が得られにくく、結合に時間がかかる場合があるため、事前の綿密な診断が欠かせません。
インプラントを安定させるために
インプラントの安定性は治療期間を通じて変化するため、いつから負荷をかけてよいかを判断する上でこの推移を理解することは極めて重要です。
まず、手術直後に最大となる「機械的安定性」は、骨を削ってインプラントをねじ込む物理的な力によって生まれます。
しかしこの力は長くは続きません。
周囲の骨が吸収されて再構築されるにつれて、手術後2~3週間に向けて急激に低下していくためです。
これに対して、オッセオインテグレーションのプロセスによって新しく作られる骨がもたらす結合力を「生物学的安定性(二次固定)」と呼びます。
この生物学的安定性は手術後2~3週間目から徐々に立ち上がり、数ヶ月かけて最大値に達していきます。
実は手術後3週間~4週間目の時期こそが、最も安定性が低くなるタイミングにほかなりません。
初期固定が下がりきっている一方で、二次固定がまだ十分に上がっていないため、お口の中が、最も危険なリスクにさらされる期間になってしまうのです。
このデリケートな期間に強い負荷がかからないよう、歯科医師は慎重に治療をコントロールしています。
従来のインプラントは骨と結合するまでに3ヶ月から半年間の待機期間が必要でしたが、現在はより早く結合させるためのイノベーションが進んでいるのです。
チタンは工場で作られてから時間が経つと、空気中の炭素を吸着して表面が水を弾く性質に変化する「チタンの老化」が起こり、血液が馴染みにくくなります。
この現象を防ぐため、現在は手術の直前に紫外線を照射したり、プラズマ処理を行ったりするプロセスが確立されました。
また近年では、生理食塩水に浸した状態で完全密閉して出荷することで、最初から超親水性を保ったインプラントも登場しています。
このように親水性を維持したインプラントは周囲の血液を強力に吸い寄せるため、骨と結合する期間を従来の約半分に短縮できるようになりました。
さらに、チタンに代わる次世代の素材として、白い高強度セラミックである「ジルコニア」を用いたインプラントが大きな注目を集めています。
このジルコニアも、従来のチタンと同等、あるいはそれ以上の優れたオッセオインテグレーション能力を持つことがすでに証明されているのです。
メタルフリーであるため金属アレルギーのリスクが完全にゼロであり、見た目の審美性にも極めて優れることから、現在は欧米を中心に導入が急速に進んでいます。
まとめ
オッセオインテグレーションは1952年に発見された現象であり、骨にインプラントを埋入した際に異物と認識されず骨と結合できる根拠となっています。
この結合を成功させるためには、初期固定や発熱のコントロールをはじめ、インプラント表面の微細な加工、さらには患者様自身の生活習慣にいたるまで、数々の条件をクリアしなければなりません。
現在では治療期間をさらに短縮して結合を加速させるために、超親水性をキープしたチタンや、次世代素材であるジルコニアインプラントも登場しています。
東京品川区五反田周辺で矯正治療をご検討の際には、是非、当院にご相談下さい。
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