近年におけるAIの進化は目覚ましく、文章作成や画像診断など多くの分野で人間を凌駕する成果を上げています。
医療の世界でもその波は来ていて、レントゲン画像の解析や問診の自動化などがAIによって進んでいるのが実情です。
こうした流れが加速すれば、いずれはAIが歯科医師の役割まで果たすようになるのではないかと考える方もいるかもしれません。
しかし、少なくとも現段階では時期尚早だと言わざるを得ません。
そこで今回は、AIが歯科医療の領域に進出するにあたって立ちはだかる具体的な障壁について迫ります。
AIに診断や治療はできない?
「歯科医師の仕事の大部分は何か」という質問に対し、即答できる方は少数に限られているでしょう。
その答えは「外科手術」ですが、それを聞いても腑に落ちない方は多いかもしれません。
しかし、一度でも歯科治療を受けたことがあり、その際に歯科医師が何をしていたかを思い起こしてみれば、この回答は決して意外ではないことが分かります。
虫歯を削る行為や、歯の根の中を治療する工程、さらにはインプラントの埋入に至るまで、そのどれもが狭い口腔内で行われる精密な外科的アプローチそのものだからです。
人間の口腔内は狭く、暗く、さらに唾液や出血によって常に視界が制限されています。
そのため歯科医師は、マイクロスコープと呼ばれる歯科用顕微鏡を使用しながら、指先に伝わる繊細な感覚だけを頼りに患部の状態を探らなければなりません。
健常な歯の組織を傷つけないよう、ミクロン単位で削る量をコントロールし、暗所を制御しながら治療を行っているのです。
現在の最新AIやロボットであっても、こうした歯科治療に求められる高度な判断力や治療技術が不十分であり、まだ業務を任せることはできません。
刻一刻と変化する濡れた生体組織の感触をリアルタイムでフィードバックし、力加減を自律的に微調整する高度な触覚センサーと制御技術が確立されていないからです。
また、治療中の患者は完全に静止しているわけではなく、急に痛みを覚えて顔を動かしたり、咳き込んだり、舌を動かしたりします。
人間の歯科医師であれば、治療中に不規則な動きを察知して瞬時に器具を止めたり、衝突を避けたりして安全を確保することができるでしょう。
しかし、AI搭載の全自動ロボットが人間と同じレベルで治療を即座に中断し、安全性を維持するには、まだ越えなければならないハードルが存在するのが実情です。
万が一の誤作動が命に関わる大事故に直結しかねないため、まだすべてを任せるわけにはいきません。
そもそもAIは、ビッグデータと呼ばれる大量の均一なデータからパターンを見つけ出すことを得意としています。
それに対して現実の歯科医療における診断と治療計画の立案は、教科書通りのパターンに当てはまらないケースがほとんどです。
さらに考慮すべき点として、噛み合わせと全身の連動性が挙げられます。
歯科治療は、問題のある1本の歯だけを治して終わるものではありません。
患者ごとに異なる顎の骨格や筋肉の緊張度、顎関節の動き、そして経年変化による歯の摩耗などを勘案した上で、総合的な判断を下す必要があるのです。
噛み合わせのバランスは頭痛や肩こり、姿勢といった全身の健康状態とも深く連動しています。
このように全体を包括的にシミュレーションして最適な着地点を見出すには、AIの画一的なアルゴリズムでは限界があるでしょう。
加えて、患者の背景に応じて治療計画を柔軟に変えていかなければならない点も、現時点でAIに歯科医療のすべてを任せられない理由の1つです。
例えば同じような虫歯の症例であっても、患者によって優先する要素は異なります。
「費用を抑えたい」「できるだけ短期間で終わらせたい」「見た目の美しさを最優先したい」など、どのような要望を持っているかによって最適な治療方針は変化するのです。
その上、糖尿病や高血圧などの持病の有無、抗凝固薬など服用している薬との兼ね合いも考慮せねばなりません。
AIであってもデータに基づき、確率的に最も効果的な治療法を提示することは可能でしょう。
しかし患者の社会的背景や価値観、医学的リスクを天秤にかけながら、総合的な最適解を臨機応変に組み立てるアプローチはAIには不可能です。
治療以外でもAIには難しいことがある

ほとんどの方が歯のトラブルに一度は悩まされた経験を持っていますが、その中で歯科医院への通院を好む方はまれではないでしょうか。
多くの場合、子どもはもちろん大人であっても、大なり小なり恐怖心や不安を抱えながら診療室の椅子に座っているのが現実です。
人間の歯科医師は、治療中の患者の表情の変化、呼吸の乱れ、あるいは手の握り方などから不安を読み取り、適切な言葉がけをすることで緊張を和らげています。
こうした共感に基づくコミュニケーションは、患者の痛みの閾値を下げてスムーズな治療を行う上で必要不可欠です。
AIがどれほど滑らかな音声で似たような言葉を並べたとしても、機械に共感されているわけではないと認識している以上、本当の意味での安心感を得ることはできません。
また予防歯科において、患者自身が自宅で行うブラッシングなどのセルフケアを欠かさず行うことは不可欠となります。
そのためには、一人ひとりのライフスタイルや性格を把握し、どうすれば行動を変えてもらえるかを考えてアプローチする「動機付け」を行う必要があるのです。
このプロセスは人間の複雑な心理に寄り添う血の通った対話そのものであり、画一的なアドバイスを画面に表示するシステムよりも、信頼する歯科医師や歯科衛生士から直接背中を押してもらう方が、心を動かす本物の力となります。
医療行為には常にリスクが伴うもので、どれほど注意を払っていても予期せぬ合併症やアクシデントが発生する可能性をゼロにすることは極めて困難です。
仮にAIが自律的に診断を下し、ロボットアームを動かして治療を行った結果として事故が起きた場合、その責任は誰が負うことになるのかという点も避けられない課題と言えます。
想定される候補としては、システムを開発したIT企業や、それを導入して治療を任せた歯科医院、あるいはAIのアルゴリズムそのものなどが挙げられるでしょう。
根本的な問題として、現在の医師法や歯科医師法といった法律は、国家資格を持った「人間」が自己の責任において医療行為を行うことを前提に作られています。
そのため人工知能に完全な法的責任を負わせることはできず、最終的な判断と責任は必ず人間の歯科医師が負わなければならないという絶対的な壁が存在しているのです。
AIの限界と正しい付き合い方
ここまでAIが歯科医師の代わりを務められない理由を解説してきましたが、これは決してAIが歯科医療の現場で無価値であるという意味ではありません。
むしろ今後の歯科医療は、AIを強力なアシスタントとして使いこなす歯科医師が主流になっていくでしょう。
現実に歯科分野においても、テクノロジーの活用はいくつかの形で実用化が進んでいるため、決して現場がAIを拒絶しているわけではないのです。
例えば、X線写真やCT画像の解析サポートとして利用すれば、人間が見落としがちな微小な虫歯や骨の透過像を瞬時に検出できます。
また、CAD/CAMによる被せ物や詰め物の3DデザインをAIがアシストすることで、歯科技工の作業効率は劇的な向上を遂げています。
さらに音声認識AIを活用すれば、治療中の歯科医師の発話を認識してそのままカルテに自動入力することもできるのです。
このように、歯科医師の作業負担を減らすための道具としてAIを組み込む試みはすでに進められており、多くの成果につながっているのです。
ただし、AIがどんなに優れたデータを提示しても、その内容を信頼するかどうかや、最適な治療方針の決定、そして実際の治療を施すコアの部分はすべて人間の歯科医師が担うことになります。
人工知能も今後の進化を続けることで、やがては歯科医師の仕事を代替できるようになる可能性を秘めていますが、現段階では、まだ全幅の信頼を寄せるには至っていません。
まとめ
歯科医師の仕事の大部分は外科手術であり、狭い口腔内で精密な物理的操作が必要となりますが、治療の際は指先の感覚だけを頼りに行っているのが実態です。
また、突発的なアクシデントへの対応や、法的責任の所在、患者とのコミュニケーションといった課題もあるため、現時点で治療のすべてをAIに任せることはできません。
しかし、画像診断のサポートやCAD/CAMによる設計の自動化、カルテ作成の補助といった作業であれば、AIを多いに役立てることができるでしょう。
東京品川区五反田周辺で矯正治療をご検討の際には、是非、当院にご相談下さい。
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