歯科治療の世界でトレンドとなっているのが、悪い歯だけを見るのではなく、口の中全体の機能を総合的に治していく「全顎治療」という考え方です。
当院では以前から当然のように続けてきたアプローチですが、近年は多くの歯科医院が取り入れる潮流が生まれています。
そこで今回は、全顎治療の概要や具体的な治療の流れ、メリットとデメリットを詳しく解説します。
全顎治療とは?
全顎治療は、英語名の「Full Mouth Reconstruction(全顎的お口の再構築)」が示す通り、お口全体を新しく作り直すような高度な総合治療のことです。
一般的な歯科治療では、右下の奥歯が痛むから削って詰める、前歯が欠けたから被せ物をするといったように、トラブルが起きている局所のみを対象に対処します。
しかし、お口全体の環境が崩壊している場合は、痛む部分だけを直しても噛み合わせのバランスが悪いと別の歯が割れたり、すぐに再発したりしかねません。
そこで全顎治療では、一口腔を一つのシステムとして捉え、噛む、話す、美しく見せるという機能を長期的かつ安定的に持続させることを目的としてアプローチします。
この治療は深刻なお口のトラブルを抱えている方に適用されるもので、例えば重度の歯周病や虫歯で多くの歯を失っている場合は必須となるでしょう。
また、長年の放置や不適切な治療の積み重ねによって顎の位置がズレてしまい、噛み合わせが崩壊しているときなどにも選択されます。
さらに、激しい歯ぎしりや食いしばりで全ての歯がすり減って短くなり、噛み合わせの高さが低くなって顎や関節に痛みが出ている場合も同様です。
過去に入れた多数の被せ物や入れ歯が合わなくなって全体のバランスが崩れているときも、全顎治療によって元の健康な状態へと整え直します。
全顎治療は単一の治療法を指すのではなく、患者様一人ひとりのお口の状態に合わせて複数のアプローチをオーダーメイドで組み合わせて行います。
その代表例であるインプラント治療では、歯を失った部分の顎骨に人工歯根を埋入することで、天然歯に極めて近い噛み心地を再現することが可能です。
加えてセラミッククラウンやブリッジなどの審美修復治療においては、残存歯を削合して強度と美しさを兼ね備えたセラミックを被せ、歯の形態や噛み合わせを美しく整えます。
一方で、骨量が不足していてインプラントが困難なケースや手術を回避したい局面では、高度な義歯治療が選択されるでしょう。
これにより、金属床義歯をはじめとするズレにくく強固に咀嚼できる高機能な入れ歯を作製していきます。
ほかに、倒れ込んでいる歯や位置がズレている歯に対しては、矯正治療によって正しい位置へ動かし、適切な噛み合わせの土台を構築します。
重度の歯周病で失われた骨や歯肉を再生させる、あるいはインプラント埋入に必要な骨幅を確保するために、歯周組織再生療法や骨造成術を併用することも少なくありません。
これらに加え、根管治療によって歯の神経の処置を精密に行うことで、基礎となる歯根の細菌を徹底的に除去し、長期的に維持できる土台を作り上げることが極めて重要となります。
全顎治療のメリットとデメリット

口内全体を丸ごと治療することで得られるメリットは、部分的な治療では決して手に入らないものばかりです。
すべての歯の噛み合わせが均等になり、正しい位置で顎が固定されるため、硬いものでもしっかりと噛み切れるようになるでしょう。
よく噛めるようになると胃腸への負担が減って栄養吸収が良くなるほか、噛む刺激が脳に伝わることで認知症の予防や全身の活力向上にも寄与します。
また、崩壊していた歯並びや低くなっていた噛み合わせの高さが適正に戻るため、口元のシワやたるみが改善されて顔の輪郭がシャープになる点も見逃せません。
白く美しいセラミック等を用いることにより、実年齢よりも遥かに若々しく自信に満ちた笑顔を取り戻すことができます。
さらに、部分的な治療を繰り返していると特定の歯に過度な負担がかかってしまい、次々と歯が寿命を迎える負の連鎖に陥るリスクが否定できません。
全顎治療によってお口全体の力のバランスを均等に整えれば、個々の歯やインプラントにかかる負担が分散され、治療後の状態が10年、20年と長期にわたって安定するのです。
不適切な噛み合わせは顎関節症を引き起こすだけでなく、周囲の筋肉を緊張させて頑固な肩こりや頭痛、姿勢の乱れを誘発する原因にもなりかねないため、全身の健康維持に直結します。
このようにお口から全身の健康までを整える全顎治療は、非常に恩恵の大きい治療である一方、アプローチする範囲が広いため患者様側にもそれ相応の覚悟と準備が求められます。
全顎治療で顎の正しい位置を特定して噛み合わせを調整することにより、これまで原因不明だった身体の不調が劇的に改善するケースは少なくありません。
具体的な懸念点として挙げられるのが治療期間であり、歯周病の改善や骨の再生、インプラントと骨の結合、さらに仮歯を用いた噛み合わせのシミュレーションなどを経るため、一般的には半年から1年半、症例によっては2年近くの歳月を要する場合もあります。
加えて、特別な材料や高度な技術、時間を要する工程が含まれることから、その多くは公的医療保険の適用外となる自由診療扱いです。
費用は治療法やクリニックによって大きく異なりますが、場合によっては数百万円規模の資金が必要になるでしょう。
また、インプラントや骨造成、歯周病の治療などに伴って外科手術を要することもあるため、高血圧や糖尿病といった持病をお持ちの方は主治医との連携が不可欠であり、状態によっては治療を見合わせるケースも想定されます。
そして最も大切なのは、どんなに素晴らしい治療をしても、その後のブラッシングを怠れば再び歯周病やインプラント周囲炎に罹患して全てが台無しになりかねません。
そのため、治療中から治療後にかけて毎日の丁寧なセルフケアを徹底し、歯科医院での定期的なメインテナンスを受け続ける強い意志を維持することが成功への絶対条件となります。
具体的な治療内容
全顎治療の一般的な流れとして、まずは精密検査と徹底的な診断を実施します。
具体的には、レントゲンやお口の中の写真の撮影、3D-CTによる立体分析、歯周病検査、および歯の型取りなどを丁寧に行う予定です。
こうして集めたデータをもとに、咬合器という特別な装置に歯の模型を取り付け、現在の噛み合わせがどうズレているかを立体的に分析しながら治療の計画を練っていきます。
検査結果が出揃った段階で、歯科医師が患者様お一人おひとりに合わせた複数の治療プランを立案する流れです。
それぞれの治療期間や費用、メリットおよびリスクを詳細に説明し、患者様の十分な同意を得てから実際の治療がスタートします。
本格的な治療が始まると、まずは激しい痛みがある歯の処置や重度の虫歯治療、歯周病の徹底的な清掃、保存不可能な歯の抜歯などを優先的に進めなければなりません。
まずはお口の中の細菌数を徹底的に減らし、クリーンな環境を作り上げることが先決です。
その後、全顎治療において最も重要とされる「仮歯の作製と噛み合わせのシミュレーション」へと移行します。
理想的な噛み合わせを計算して作製した精密な仮歯を装着し、微調整を重ねていくことになるのです。
数ヶ月にわたり仮歯を装着して日常生活を過ごしていただき、微調整を繰り返しながら、ゴールとなるインプラントや被せ物の設計図を確定させていきます。
このシミュレーションで決定した噛み合わせの通りに、インプラントの最終的な人工歯を装着したり、セラミックの被せ物や精密な入れ歯をセットしたりしていく計画です。
すべての治療が完了した後は、新しい噛み合わせを良好に維持し、病気の再発を防ぐために3ヶ月~半年に1回のペースで定期健診とクリーニングへ通うことになります。
全顎治療の費用は高額になりますが、噛む機能の回復を目的とした治療のものであれば、国から医療費控除のサポートが受けられるのも大きな安心材料です。
確定申告を行うことで支払った税金の一部が還付されるほか、翌年の住民税も軽減されるため、実質的な割引のような効果が生まれます。
全顎治療を成功に導くためには歯科医院選びも極めて重要となるため、これまでの治療実績や導入設備などを入念にチェックし、安心して任せられるパートナーを見つけましょう。
まとめ
全顎治療は、虫歯や歯周病になった場所を治すのではなく、お口全体を1つのシステムとして捉えてアプローチします。
お口が持つ本来の機能を長期的かつ安定的に持続させることを目的としており、噛む機能の劇的な改善を通じて全身の健康を守ることにもつながる治療法です。
さらに、口元も若々しく変化するほか、将来的な再発リスクを低減できるメリットもあります。
一方で、ケースによっては外科手術を伴う点には事前の心構えが必要です。
治療費は高額になりますが、医療費控除の手続きをすれば税金が戻ってくるため、実質的な負担軽減効果が期待できるでしょう。
東京品川区五反田周辺で矯正治療をご検討の際には、是非、当院にご相談下さい。
一人一人に合った治療方法をご提案させて頂きます。


