鏡を見たとき、歯と歯茎の境目が茶色いことに気づいたり、歯の根元に冷たいものがしみて不快感を覚えたりした場合には、「歯頚部う蝕」を疑う必要があります。
この病気は歯の根元に特有の虫歯であり、医学的には「根面う蝕」という名称でも知られ、大人が罹患する虫歯の代表格とされています。
今回は、歯頚部う蝕の発生メカニズムや特徴、具体的な治療方法まで詳しく解説します。
歯頚部う蝕とは?
歯の頭である歯冠と根っこである歯根の境目周辺にできる虫歯を「歯頚部う蝕」と呼び、そのうち歯茎が下がって露出した根元の部分に限定したものを特に「根面う蝕」と呼びます。
人間の歯は、口内で白く見えている歯冠部と、歯茎や骨の中に埋まっている歯根部に分けられます。
この境界線にあたる歯のくびれが「歯頚部」と呼ばれるため、ここにできる虫歯を歯頚部う蝕と呼ぶのです。
一般的には、歯茎が下がって根元が露出した部分は歯頚部でもあり、どちらも同じ症状を指す言葉として重複して使われるケースが少なくありません。
子どもや若者の歯は健康な歯茎によって歯根部が覆われているため、口内で露出しているのは強固なエナメル質で守られた歯冠部だけです。
しかし、加齢や歯周病の進行にともなって歯茎は少しずつ退縮していき、本来なら隠れているはずの根元が露出してしまいます。
この歯茎の低下を経て初めて発生する虫歯である点が、中高年以降の成人に多発する最大の理由です。
なお、歯頚部う蝕は甘いものの過剰摂取だけでできるわけではなく、その背景には複数の原因が複雑に絡み合っています。
そもそも歯冠部の表面は、人間の身体の中で最も硬い組織であり、酸にも強い抵抗力を持つエナメル質で覆われているため、本来であれば虫歯になりにくい構造です。
一方で、歯根部の表面は非常に薄いセメント質に覆われているだけで、その下には象牙質が隠れています。
象牙質はエナメル質よりもデリケートで、はるかに弱い酸の段階で溶け始めてしまいます。
炭酸飲料やワイン、ドレッシングなど普段よく口にするものの酸によって根元がダメージを受けると、さらに虫歯の原因菌の餌食になりやすくなってしまうのです。
また、歯頚部の形状も歯頚部う蝕の原因に挙げられます。
表面がゆるやかなカーブを描いてくびれているだけでなく、歯茎との境界線があるため、細菌の塊であるプラークが非常に溜まりやすいスポットです。
日常的なブラッシングでは歯の平らな面にブラシが当たりがちで、肝心の根元まで毛先が届かないケースが少なくありません。
結果として、毎日丁寧に歯を磨いていても、歯頚部にプラークが残り続けるため、虫歯の悪化を招きます。
唾液には食後に酸性に傾いた口内を中性に戻す緩衝作用や、酸で溶けかけた歯の成分を元に戻す再石灰化作用があり、口内の健康維持において重要な役割を果たします。
しかし加齢とともに唾液の分泌量が低下する上に、中高年に多い慢性期疾患の治療薬には副作用としてお口の渇きをもたらす成分を含むものが多くみられるため、お口の中がさまざまなトラブルにさらされやすくなるのです。
唾液という強力な防御壁を失うと、酸に弱い歯頚部があっという間にダメージを受けてしまいます。
歯頚部う蝕の特徴

通常の歯の頭の虫歯とは異なる特徴を持つ歯頚部う蝕の特筆すべき点として、通常の虫歯と比べて進行スピードが非常に速いことが挙げられます。
露出した根元の象牙質は硬度が低くエナメル質に比べて柔らかいため、一度虫歯の原因菌が侵入すると数倍の速さで奥へと進行していきます。
それだけでなく、痛みが伴いにくい点も問題です。
通常の虫歯は象牙質に到達した段階で「冷たいものがしみる」というサインが出て気づくケースが少なくありません。
しかし、歯頚部う蝕の場合は加齢とともに歯の神経自体が縮んで奥に引っ込む現象が起きていることが多く、神経の近くまで虫歯が進んでも痛みが出にくくなるのです。
この「無痛性」こそが歯頚部う蝕ではまりやすい罠であり、知らず知らずのうちに虫歯の悪化を招く要因となっています。
また、一般的な虫歯が深く掘り進むように進行するのに対し、歯頚部う蝕は歯の根元をぐるりと一周するように横方向へ広がっていきます。
この独特の進み方のせいで、ある日硬いものを噛んだ拍子に、虫歯でもろくなった根元から上の歯がいとも簡単に折れてしまうという悲劇が起こりやすくなるのです。
さらに、この虫歯は治療を終えた後にも注意が必要です。
一度歯科医院でキレイに削ってプラスチックなどを詰めても、歯頚部は常に唾液や水分に晒されるだけでなく、ブラッシングがしにくいという課題が残ります。
そのため、せっかく詰めたものの隙間から虫歯の原因菌が再侵入し、二次う蝕へつながる危険性が非常に高いのです。
歯頚部う蝕の治療方法と予防方法
歯頚部う蝕の治療は、どの段階で発見できたかによってアプローチが大きく異なります。
まだ初期で、表面に白濁や茶色い変色があっても穴がない場合は、歯を削る必要はありません。
しかし、表面にはっきりと穴が空き、黒ずんでくる中期になると、虫歯部分を慎重に削ってコンポジットレジンを充填します。
さらに、根本が折れかかったり神経に到達したりする後期段階では根管治療を検討しますが、保存が不可能な場合には抜歯が避けられません。
このように恐ろしい虫歯を予防し、初期段階で進行を食い止めるためには、毎日のセルフケアの質を高める必要があります。
象牙質を酸に負けない状態へ導くために、まずは「1450ppmF」と記載された国内最高濃度のフッ素配合歯磨き粉を手に入れましょう。
その上で「イエテボリ法」を取り入れ、十分な量の歯磨き粉で2分間じっくりとブラッシングを行います。
吐き出した後のうがいはペットボトルのキャップ1杯分の水で1回にとどめ、その後20〜30分間は飲食を控えるのが効果的です。
正しい磨き方をきちんと実践することで、口内にフッ素の成分が長く留まり、象牙質の再石灰化が強力に促進されます。
歯の根元を磨くときは、歯面に対してブラシを直角に当てるのではなく、毛先を45度の角度にして境目を狙うのがコツです。
こうすることで、直角では届かない細かい部分にも毛先が行き届くようになります。
次に注意したいのは力加減であり、歯茎が下がって根元が削れやすい状態の方ほど、硬い毛でゴシゴシと磨く悪習慣はかえって虫歯を誘発します。
毛の硬さは「ふつう」か「やわらかめ」を選び、鉛筆を持つように優しく握って、100〜150g程度の軽い力で細かく動かしてあげましょう。
実は、歯頚部う蝕は歯と歯の間の根元にもできやすく、通常の歯ブラシだけでは全体の6割ほどの汚れしか落とせていません。
そこでデンタルフロスを使用して根元のカーブに沿わせながらプラークをかき出しましょう。
歯茎が下がって隙間が広くなっている部分については、無理にフロスを通そうとせず、ぴったりなサイズの歯間ブラシを用いてケアするのがおすすめです。
これら2つの補助清掃用具を1日1回取り入れるだけで、プラークの除去率はなんと9割近くまでアップします。
もう一つの大切なアプローチとして唾液の分泌を促すために、食事の際は噛む回数を増やすとともに、キシリトール100%のガムも取り入れてみてください。
日頃からこまめに水分補給をして、お口の中を潤すことも大切です。
ただし、緑茶やコーヒーは利尿作用があり、ジュースは糖分が多いため、普段飲むなら水や麦茶がベストといえます。
より効率を高めたいなら、耳の下や顎の下にある唾液腺を優しく指でマッサージして刺激すれば、唾液の分泌を促すことが可能です。
まとめ
大人が陥りやすい歯頚部う蝕は、痛みにくく進行が早い上に、歯が折れる引き金にもなります。
そのため、歯周病などで歯茎が下がった際は警戒を怠ってはいけません。
しかし原因や対策は明確なため、正しい知識があれば確実に防げます。
まずは徹底的なプラーク除去に努め、唾液が減る薬を服用中なら意識して分泌を促しましょう。
東京品川区五反田周辺で矯正治療をご検討の際には、是非、当院にご相談下さい。
一人一人に合った治療方法をご提案させて頂きます。


